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2015.05.01 Friday
大人のピアノの学習メソッド:ピアノ力と音色の感覚
前回「大人のピアノの学習メソッド:ピアノ力の構造」の続きになます。
●下手の方が上手い?!
前々から不思議に思っていたことなんですが、私の下手くそなピアノに対して、ピアノを始めた当初から「酔狂さんは音色がいい、バランスがいい、音楽的に弾く」と言って頂けることが時々あります。(99%は、お世辞だと思いますが・・・いや、99.9%ぐらいかもしれない・・・^^)
しかし、0.1%ぐらいは理由があるのかもしれません。
というのは・・・。私の所属する角聖子音楽院では、大人の初心者が多く参加する発表会があって、そこで、大人からはじめてまだ数か月、数年といった方の演奏を聞く事があります。確かに、熟練者に比べると演奏技術という点では及びません。しかし、時々、ハッとするような美しい音を出します。
ピアノの音色は、基本的に鍵盤がハンマーを送り出す時の速度に依存しますが、指が鍵盤に当たったり、鍵盤が底(棚板)に当たったりする時の雑音、次々と音を弾くときのレガートやバランス、指を鍵盤に残す事やペダルによる響きの制御など、けっこう演奏者によって「音色」が違います。
大お師匠様の角聖子先生も、「一音、一音を大切に」、「たった一音でも心に響く音があればいい」というようなことをよくおっしゃいます。
そういう点からすると、確かに、技術的には初心者、要するに「下手」のほうが、半ばまぐれかもしれませんが、「いい音」を出す瞬間が目立ちます。
どうしてなんでしょう?
●「ド」は「ド」だけが鳴っているんじゃない!
さて、ここから例によって屁理屈モード突入です。
音色の秘密は、倍音です。
下の図を見てください。これは、ピアノ(カワイ製の電子音源)のスペクル(周波数分布)です。Audacityという有名なフリーソフトを使って可視化してあります。
【中央のドC4】
私たちが音程と呼んでいるのは、一番低いピークのC4(中央のド)の音です。これを基音と言います。
実際には、この2倍、3倍、・・・の倍音が出ています。面白いのは、C4の3倍音はG5、すなわち「ソ」、5倍音はE6、すなわち「ミ」です。
「ド」の音を出しているつもりが、「ソ」とか「ミ」の音が鳴っているのです。(さらに高い倍音を含めると、12音階の全部の音が鳴っています。)
私たちは、(普通は)これらを渾然一体とした響きとして聞き取り、ピアノの「ド」の音として認識しているのです。
中には、普通じゃない人もいるかもしれません。人間スペクトラムアナライザ級の人がいて、すべの倍音を分離して聴き分ける能力のある人・・・って、ホントにいたら、ほとんど宇宙人です。(笑)
こちらは、G4G5の「ソ」の音です。「ド」の時と同様に、「ソ」の倍音に「レD6」とか「シB6」の音が含まれています。
(※G4をG5と誤記していました。訂正2015/05/12。)
●「ド」と「ソ」を同時に鳴らすと
「ド」と「ソ」を同時に鳴らすと、単に二つの音が鳴っているだけではなく、両者の倍音が混じって複雑な響きを創り出します。
「ド」と「ソ」は完全5度、すなわち、周波数比2:3という、オクターブ(1:2)を除いて、音階の中で最も単純な周波数比になっています。厳密にいうと、ピアノの調律法である平均律では2:3からほんの少しずれるのですが、その差は僅かです。
その結果、何が起こるのかというと、私には「ド」と「ソ」が渾然一体となった一つの複雑な音に聞こえます。「ド」と「ソ」が別々に聞こえません。これこそ、ノンラベリング型音感の特徴であり、ラべリング型音感に対する優位点なのです。
もう一回、繰り返します。『優位点』、なのです。
何とか「ド」と「ソ」を頑張って聴き分けようすると、確かに、一番低い音が聞こえてきます。その時、別の音、すなわち、倍音を聞く事が自動的に抑制されます。
これは、何か一つの音に着目すると他が聞こえなくなるという、人間の聴覚が持つ特性です。有名なカクテルパーティー効果(ざわついたパーティ会場でも誰かが自分の名前を言うと突然それが聞き取れるような現象)と同様の現象です。
一方、ラベリング能力のある人はどうでしょうか?
無意識のうちに、「ド」と「ソ」が別々の音としてはっきり聞こえますか?
音程を聞き取るためには、倍音系列の一番下の音、すなわち、基音だけを聞き取る必要があります。
ということは、倍音を聞かなくなります。ようするに、「音程」を聞き取るために、「音色」を犠牲にしているのです。
そして、音程はドレミのラベルに変換され、記号的に処理されます。その際、もともとの音が持っていた音色の情報は捨てられてしまいます。(実際には、全部捨てるわけではなくて、音色の情報も並列処理しているのだと思います。しかし、ノンラベリング型の人に比べて、音色の情報の相対的重要度は下がると思います。)
ラベリング能力のある人が、基音を聞き取る事は、演奏上は有利です。基音は鍵盤位置そのものだからです。
しかし、音色を(ほとんど無意識のうちに)軽視する事は、音楽的な演奏という面では不利です。
優れた演奏者は、倍音を含む音色の情報と、基音によるドレミのラベル・鍵盤位置の情報の双方を、フルに活用しているのだと思います。だから、一流のプロなのです。
ところが、まあ、そこそこ弾ける程度の方だと、大変失礼な言い方ですが、「確かに楽譜通り正確に速く弾いているけど、音色の変化や表情に乏しいつまらない演奏」になりがちです。
一方、ノンラベリング型音感の人は、音程がドレミ・鍵盤位置に変換できません。
頼るものは、音そのものの感覚です。ノンラベリング型音感の人は、倍音系列を含めた音全体の響き、ハーモニーを聞いているのです。
技術的には未熟であっても、「いい音」を出そうと、これまた半ば無意識に努力してしまいます。だから、たぶん、初心者でも、ハッとするほどいい音がだせるのです。
●音楽性サブシステム
音楽の三大要素は、リズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声、和音)、なんだそうです。そして、ここに「音色」を加えてもいいと思います。
音楽の「四大要素」です。
この音楽の四大要素を認識し、制御しているのが「音楽性サブシステム」です。実際は単一のシステムではなく、複雑な内部構造をしていると思いますが、ここでは一体のものとして扱います。
この音楽性サブシステムが、運指サブシステムの上位システムとして機能し、単なる音から音楽を作り上げているのです。
●ラベリング型音感とノンラベリング型音感の音楽性サブシステムの違い
脳のある機能が発達すると、競合関係にある別の機能の発達が抑制される、と言う現象があるそうです。(シナプス競合)
例えば絶対音感と相対音感の関係が、これにあたると思います。両方ともバッチリ、という人は、なかなかいないはずです。
ラベリング型音感の人は、基音を選択的に聞き取る事で、音を音名に変換します。その代償として、音色(倍音)に関する感受性が低下してしまっている可能性があります。
ノンラベリング型音感の人は、倍音系列の全体を聞き取ります。音名への変換はできませんが、音色に対する感覚は、ラベリング型音感の人に比べて潜在的に優れている可能性があります。
分かりやすく言うと、「(特に音色に関して)耳がいい」んです。
また、前にノンラベリング型の人は両手練習の方がよい、と書きましたが、もう一つの大きな理由がこれです。ノンラベリング型の人は、倍音系列を含めたハーモニーを手がかりに、運指サブシステムを制御しているのです。
●ノンラベリング型音感の鍛え方
前回の記事では、ノンラベリング型音感の人は読譜力を鍛えるべきだ、と書きました。
もう一つ、ぜひ鍛えるべきなのが、音色に対する感覚です。
速く弾こうとか、複雑なメロディーを弾こうとかいう意識はそこそこにして、「いい音で弾こう」と思ってください。
これが、上達への近道です。「速く、雑に、勢いで弾く」のは、自分の長所を無視した悪い練習法です。
「どの鍵盤を弾くか」という情報は、暗譜しないで、楽譜から読み取りましょう。そして、「いい音」を出せた時のタッチ、運指、触感、ペダリングを徹底的に分析し、長期記憶に焼き付けましょう。それがよい演奏に繋がるはずです。
前に書いた「格言(?)」の改定版です。
「ピアノは目で弾け、そして耳で制御せよ」。
●下手の方が上手い?!
前々から不思議に思っていたことなんですが、私の下手くそなピアノに対して、ピアノを始めた当初から「酔狂さんは音色がいい、バランスがいい、音楽的に弾く」と言って頂けることが時々あります。(99%は、お世辞だと思いますが・・・いや、99.9%ぐらいかもしれない・・・^^)
しかし、0.1%ぐらいは理由があるのかもしれません。
というのは・・・。私の所属する角聖子音楽院では、大人の初心者が多く参加する発表会があって、そこで、大人からはじめてまだ数か月、数年といった方の演奏を聞く事があります。確かに、熟練者に比べると演奏技術という点では及びません。しかし、時々、ハッとするような美しい音を出します。
ピアノの音色は、基本的に鍵盤がハンマーを送り出す時の速度に依存しますが、指が鍵盤に当たったり、鍵盤が底(棚板)に当たったりする時の雑音、次々と音を弾くときのレガートやバランス、指を鍵盤に残す事やペダルによる響きの制御など、けっこう演奏者によって「音色」が違います。
大お師匠様の角聖子先生も、「一音、一音を大切に」、「たった一音でも心に響く音があればいい」というようなことをよくおっしゃいます。
そういう点からすると、確かに、技術的には初心者、要するに「下手」のほうが、半ばまぐれかもしれませんが、「いい音」を出す瞬間が目立ちます。
どうしてなんでしょう?
●「ド」は「ド」だけが鳴っているんじゃない!
さて、ここから例によって屁理屈モード突入です。
音色の秘密は、倍音です。
下の図を見てください。これは、ピアノ(カワイ製の電子音源)のスペクル(周波数分布)です。Audacityという有名なフリーソフトを使って可視化してあります。
【中央のドC4】
私たちが音程と呼んでいるのは、一番低いピークのC4(中央のド)の音です。これを基音と言います。
実際には、この2倍、3倍、・・・の倍音が出ています。面白いのは、C4の3倍音はG5、すなわち「ソ」、5倍音はE6、すなわち「ミ」です。
「ド」の音を出しているつもりが、「ソ」とか「ミ」の音が鳴っているのです。(さらに高い倍音を含めると、12音階の全部の音が鳴っています。)
私たちは、(普通は)これらを渾然一体とした響きとして聞き取り、ピアノの「ド」の音として認識しているのです。
中には、普通じゃない人もいるかもしれません。人間スペクトラムアナライザ級の人がいて、すべの倍音を分離して聴き分ける能力のある人・・・って、ホントにいたら、ほとんど宇宙人です。(笑)
【ソG4G5】
こちらは、G4
(※G4をG5と誤記していました。訂正2015/05/12。)
●「ド」と「ソ」を同時に鳴らすと
「ド」と「ソ」を同時に鳴らすと、単に二つの音が鳴っているだけではなく、両者の倍音が混じって複雑な響きを創り出します。
「ド」と「ソ」は完全5度、すなわち、周波数比2:3という、オクターブ(1:2)を除いて、音階の中で最も単純な周波数比になっています。厳密にいうと、ピアノの調律法である平均律では2:3からほんの少しずれるのですが、その差は僅かです。
その結果、何が起こるのかというと、私には「ド」と「ソ」が渾然一体となった一つの複雑な音に聞こえます。「ド」と「ソ」が別々に聞こえません。これこそ、ノンラベリング型音感の特徴であり、ラべリング型音感に対する優位点なのです。
もう一回、繰り返します。『優位点』、なのです。
何とか「ド」と「ソ」を頑張って聴き分けようすると、確かに、一番低い音が聞こえてきます。その時、別の音、すなわち、倍音を聞く事が自動的に抑制されます。
これは、何か一つの音に着目すると他が聞こえなくなるという、人間の聴覚が持つ特性です。有名なカクテルパーティー効果(ざわついたパーティ会場でも誰かが自分の名前を言うと突然それが聞き取れるような現象)と同様の現象です。
一方、ラベリング能力のある人はどうでしょうか?
無意識のうちに、「ド」と「ソ」が別々の音としてはっきり聞こえますか?
音程を聞き取るためには、倍音系列の一番下の音、すなわち、基音だけを聞き取る必要があります。
ということは、倍音を聞かなくなります。ようするに、「音程」を聞き取るために、「音色」を犠牲にしているのです。
そして、音程はドレミのラベルに変換され、記号的に処理されます。その際、もともとの音が持っていた音色の情報は捨てられてしまいます。(実際には、全部捨てるわけではなくて、音色の情報も並列処理しているのだと思います。しかし、ノンラベリング型の人に比べて、音色の情報の相対的重要度は下がると思います。)
ラベリング能力のある人が、基音を聞き取る事は、演奏上は有利です。基音は鍵盤位置そのものだからです。
しかし、音色を(ほとんど無意識のうちに)軽視する事は、音楽的な演奏という面では不利です。
優れた演奏者は、倍音を含む音色の情報と、基音によるドレミのラベル・鍵盤位置の情報の双方を、フルに活用しているのだと思います。だから、一流のプロなのです。
ところが、まあ、そこそこ弾ける程度の方だと、大変失礼な言い方ですが、「確かに楽譜通り正確に速く弾いているけど、音色の変化や表情に乏しいつまらない演奏」になりがちです。
一方、ノンラベリング型音感の人は、音程がドレミ・鍵盤位置に変換できません。
頼るものは、音そのものの感覚です。ノンラベリング型音感の人は、倍音系列を含めた音全体の響き、ハーモニーを聞いているのです。
技術的には未熟であっても、「いい音」を出そうと、これまた半ば無意識に努力してしまいます。だから、たぶん、初心者でも、ハッとするほどいい音がだせるのです。
●音楽性サブシステム
音楽の三大要素は、リズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声、和音)、なんだそうです。そして、ここに「音色」を加えてもいいと思います。
音楽の「四大要素」です。
この音楽の四大要素を認識し、制御しているのが「音楽性サブシステム」です。実際は単一のシステムではなく、複雑な内部構造をしていると思いますが、ここでは一体のものとして扱います。
この音楽性サブシステムが、運指サブシステムの上位システムとして機能し、単なる音から音楽を作り上げているのです。
●ラベリング型音感とノンラベリング型音感の音楽性サブシステムの違い
脳のある機能が発達すると、競合関係にある別の機能の発達が抑制される、と言う現象があるそうです。(シナプス競合)
例えば絶対音感と相対音感の関係が、これにあたると思います。両方ともバッチリ、という人は、なかなかいないはずです。
ラベリング型音感の人は、基音を選択的に聞き取る事で、音を音名に変換します。その代償として、音色(倍音)に関する感受性が低下してしまっている可能性があります。
ノンラベリング型音感の人は、倍音系列の全体を聞き取ります。音名への変換はできませんが、音色に対する感覚は、ラベリング型音感の人に比べて潜在的に優れている可能性があります。
分かりやすく言うと、「(特に音色に関して)耳がいい」んです。
また、前にノンラベリング型の人は両手練習の方がよい、と書きましたが、もう一つの大きな理由がこれです。ノンラベリング型の人は、倍音系列を含めたハーモニーを手がかりに、運指サブシステムを制御しているのです。
●ノンラベリング型音感の鍛え方
前回の記事では、ノンラベリング型音感の人は読譜力を鍛えるべきだ、と書きました。
もう一つ、ぜひ鍛えるべきなのが、音色に対する感覚です。
速く弾こうとか、複雑なメロディーを弾こうとかいう意識はそこそこにして、「いい音で弾こう」と思ってください。
これが、上達への近道です。「速く、雑に、勢いで弾く」のは、自分の長所を無視した悪い練習法です。
「どの鍵盤を弾くか」という情報は、暗譜しないで、楽譜から読み取りましょう。そして、「いい音」を出せた時のタッチ、運指、触感、ペダリングを徹底的に分析し、長期記憶に焼き付けましょう。それがよい演奏に繋がるはずです。
前に書いた「格言(?)」の改定版です。
「ピアノは目で弾け、そして耳で制御せよ」。
2015.04.26 Sunday
大人のピアノの学習メソッド:ピアノ力の構造
●覚え方が問題
初見でバリバリ弾きこなせるような方は別ですけど、普通は、練習を重ねて曲を少しずつ覚えていきます。
この「覚え方」が、子供から続けた人(熟練者、ピアノの先生など)と、大人の初心者では、構造的に違う、すなわち、「ピアノ力の構造」が違うのではないかと、最近、考えるようになりました。
「大人と子供は違う」と言うのは簡単ですが、「具体的に、どこがどう違うのか」、「その違いに応じた学習メソッドはあるのか」、という事が、私の長年の疑問でした。
まあ、11年もピアノをやっていれば、少しは分かってきた事もあります。最近の記事との重複もありますが、もう一度、分かりやすいチャートを作って整理してみたいと思います。
●熟練者の場合
熟練者が曲を覚える場合、上のチャートに示すように、主として「聴覚(音そのもの)」、「楽譜」、「鍵盤感覚」、「鍵盤を見ること」の四つの入力を使うのだと思います。(ゴチャゴチャした図ですが、これでも相当に省略して書いています。)
例えば、聴覚から入力された音楽は、まず「音響イメージWM」に蓄えられます。(WM=Working Memory、作業記憶、作動記憶、短期記憶)
※ちなみに、この図のWMは、ぜんぶ私のでっち上げなので、ご注意ください。これらの実在可能性は、火星人の想像図(タコみたいなアレね)並みです(笑)。
この音響イメージは、そのまま長期記憶に蓄えられます。音楽そのものを覚える事に相当します。
また、音響イメージは、ラベリングサブシステム、すなわち音とドレミの音名(階名の場合も含む。以下同様)を相互変換する能力によって、ドレミという記号(表象)に変換され、音名WMに送られます。
そして、熟練者の場合、音そのものと同時に、ドレミの音名列(聴覚的な言語情報)としても長期記憶に蓄えられます。
ドレミの音名列は、さらに運指サブシステムに送られ、どの指でどの鍵盤を押すのか、運指がプランニングされます。このプランニングの情報も長期記憶に送られます。
次に、その運指プランに基づき、筋肉が動き、打鍵が実施されます。その時の筋肉の動きや、指先で感じた鍵盤感覚(タッチ)の情報もまた、長期記憶に送られます。(いわゆる、指に覚え込ませる状態)
以上は耳から聞いた曲を覚える場合ですが、楽譜からスタートして、視覚的に情報が処理されるルートも当然あります。
音から覚える場合との違いは、楽譜には指番号が書いてあるので、運指プランニングの情報も得られる点です。
暗譜で演奏する場合は、長期記憶に蓄えられたこれら様々な情報を総動員します。
「何をどのくらい」というのは人によると思いますが、これらの総合的な記憶の力がピアノ力の源泉になっている事は間違いありません。
●大人の初心者の場合
一方、大人の初心者の場合、「音がドレミに聞こえない」、「楽譜が読めない」、というケースが大半でしょう。
上の図で言うと、「ラベリングサブシステム」、「読譜サブシステム」が無い状態です。聴覚言語的にも、視覚言語的にも、脳の持つ言語処理ないし記号処理の能力がほとんど使えていません。
この状態で曲を弾こうとすると、とにかく、どの鍵盤を押すかをクソ暗記して、ひたすら鍵盤凝視の状態で弾くしかありません。しかも運指もタッチもメチャクチャなので、まともに弾けません。
●大人の初心者は熟練者のようになれるのか?
これは、あくまでも、私の個人的体験に基づく仮定です。
なれません。
しかし、かなり近づく事はできます。
音楽ではありませんが、言語習得で似たような現象の存在が分かっています。
第1言語(母語、母国語)の習得には年齢的な限界(臨界期)があって、それは思春期前(12才前後)と言われています。
ただし、当然のことながら、臨界期が過ぎても、言語習得がまったく不可能になるわけではありません。
第2言語(≒外国語)の習得においては、ネイティブの人のような発音や文法の獲得は困難である事が知られています。ただし、実用的に使える程度であれば、何歳からでも習得できます。最近は、日本にも外国の方が沢山住んでいますが、実用上問題ない程度の日本語は喋ってますから、実感としてお分かりいただけるでしょう。
そして、ごく少数ですが大人からでも第1言語並みの発音と文法を習得できる、という報告があるそうです。
ただし、その「第1言語並みの発音と文法を習得した人」が、ネイティブの人と同じ脳の使い方をしているとは限りません。
まあ、このあたりは、学問的にもまだまだ分かっていない事が多いようです。
話をピアノに戻します。
私の経験から言うとラベリングサブシステム(音がドレミに聞こえる能力)の習得は、ほぼ、不可能です。
子供の頃からピアノを習っていた熟練者やピアノの先生は、いわば、「ドレミ語のネイティブスピーカー」なのです。この人たちと同じにはなれません。
しかし、読譜サブシステムの方は鍛えれば何とかなります。
その場合であっても、子供が習う場合とは違うやり方をします。ラベリングサブシステムとまったく連携を取らない方法で鍛えるのです。(取りたくても存在しないので)
ピアノ力の半分を占める「演奏力」を、音そのものに依存しない視覚言語駆動システムに再編するのです。
別の言い方をすると、楽譜を「運指情報を記載した視覚言語」と割り切って、徹底的に速読する訓練をするのです。
少々刺激的な言い方をすると、「楽譜から音楽を読み取るな! ただ機械的に運指のみ読み取れ!」という事です。(あ、演奏の補助情報も少しは読み取ってね。)
これで、たぶん、弾けます。
●大人のための「酔狂メソッド」
以上をまとめたのが、上のチャートです。
今年(2015年)の2月上旬ぐらいまでは、何とか「暗譜して弾こう」と努力していました。しかし、どうしても、上手く弾けません。
2月下旬頃、開き直りました。「暗譜しなくたって、別に、いいじゃん! 子供の頃からやっていた人とは別のやり方を探そう!」と決めました。
その備忘録的チャートです。
※ピアノ力の残りの半分は、「音楽性」です。今回は、故意にチャートから「音楽性サブシステム」を抜きました。さて、そのココロは・・・。次回を括目して待て! 別に待ってる人はいないかぁ・・・。(笑)
初見でバリバリ弾きこなせるような方は別ですけど、普通は、練習を重ねて曲を少しずつ覚えていきます。
この「覚え方」が、子供から続けた人(熟練者、ピアノの先生など)と、大人の初心者では、構造的に違う、すなわち、「ピアノ力の構造」が違うのではないかと、最近、考えるようになりました。
「大人と子供は違う」と言うのは簡単ですが、「具体的に、どこがどう違うのか」、「その違いに応じた学習メソッドはあるのか」、という事が、私の長年の疑問でした。
まあ、11年もピアノをやっていれば、少しは分かってきた事もあります。最近の記事との重複もありますが、もう一度、分かりやすいチャートを作って整理してみたいと思います。
●熟練者の場合
熟練者が曲を覚える場合、上のチャートに示すように、主として「聴覚(音そのもの)」、「楽譜」、「鍵盤感覚」、「鍵盤を見ること」の四つの入力を使うのだと思います。(ゴチャゴチャした図ですが、これでも相当に省略して書いています。)
例えば、聴覚から入力された音楽は、まず「音響イメージWM」に蓄えられます。(WM=Working Memory、作業記憶、作動記憶、短期記憶)
※ちなみに、この図のWMは、ぜんぶ私のでっち上げなので、ご注意ください。これらの実在可能性は、火星人の想像図(タコみたいなアレね)並みです(笑)。
この音響イメージは、そのまま長期記憶に蓄えられます。音楽そのものを覚える事に相当します。
また、音響イメージは、ラベリングサブシステム、すなわち音とドレミの音名(階名の場合も含む。以下同様)を相互変換する能力によって、ドレミという記号(表象)に変換され、音名WMに送られます。
そして、熟練者の場合、音そのものと同時に、ドレミの音名列(聴覚的な言語情報)としても長期記憶に蓄えられます。
ドレミの音名列は、さらに運指サブシステムに送られ、どの指でどの鍵盤を押すのか、運指がプランニングされます。このプランニングの情報も長期記憶に送られます。
次に、その運指プランに基づき、筋肉が動き、打鍵が実施されます。その時の筋肉の動きや、指先で感じた鍵盤感覚(タッチ)の情報もまた、長期記憶に送られます。(いわゆる、指に覚え込ませる状態)
以上は耳から聞いた曲を覚える場合ですが、楽譜からスタートして、視覚的に情報が処理されるルートも当然あります。
音から覚える場合との違いは、楽譜には指番号が書いてあるので、運指プランニングの情報も得られる点です。
暗譜で演奏する場合は、長期記憶に蓄えられたこれら様々な情報を総動員します。
「何をどのくらい」というのは人によると思いますが、これらの総合的な記憶の力がピアノ力の源泉になっている事は間違いありません。
●大人の初心者の場合
一方、大人の初心者の場合、「音がドレミに聞こえない」、「楽譜が読めない」、というケースが大半でしょう。
上の図で言うと、「ラベリングサブシステム」、「読譜サブシステム」が無い状態です。聴覚言語的にも、視覚言語的にも、脳の持つ言語処理ないし記号処理の能力がほとんど使えていません。
この状態で曲を弾こうとすると、とにかく、どの鍵盤を押すかをクソ暗記して、ひたすら鍵盤凝視の状態で弾くしかありません。しかも運指もタッチもメチャクチャなので、まともに弾けません。
●大人の初心者は熟練者のようになれるのか?
これは、あくまでも、私の個人的体験に基づく仮定です。
なれません。
しかし、かなり近づく事はできます。
※ちょっと書き方がキツかったかもしれません。ここでいう「熟練者」は相当の演奏力を持つ「プロ級」の方を想定しています。こういった方と「同じ」になるのは難しい。でも、大人の初心者でも、頑張れば、かなりのレベルには行けると思っています。(2015/04/29追記)
音楽ではありませんが、言語習得で似たような現象の存在が分かっています。
第1言語(母語、母国語)の習得には年齢的な限界(臨界期)があって、それは思春期前(12才前後)と言われています。
ただし、当然のことながら、臨界期が過ぎても、言語習得がまったく不可能になるわけではありません。
第2言語(≒外国語)の習得においては、ネイティブの人のような発音や文法の獲得は困難である事が知られています。ただし、実用的に使える程度であれば、何歳からでも習得できます。最近は、日本にも外国の方が沢山住んでいますが、実用上問題ない程度の日本語は喋ってますから、実感としてお分かりいただけるでしょう。
そして、ごく少数ですが大人からでも第1言語並みの発音と文法を習得できる、という報告があるそうです。
ただし、その「第1言語並みの発音と文法を習得した人」が、ネイティブの人と同じ脳の使い方をしているとは限りません。
まあ、このあたりは、学問的にもまだまだ分かっていない事が多いようです。
話をピアノに戻します。
私の経験から言うとラベリングサブシステム(音がドレミに聞こえる能力)の習得は、ほぼ、不可能です。
子供の頃からピアノを習っていた熟練者やピアノの先生は、いわば、「ドレミ語のネイティブスピーカー」なのです。この人たちと同じにはなれません。
しかし、読譜サブシステムの方は鍛えれば何とかなります。
その場合であっても、子供が習う場合とは違うやり方をします。ラベリングサブシステムとまったく連携を取らない方法で鍛えるのです。(取りたくても存在しないので)
ピアノ力の半分を占める「演奏力」を、音そのものに依存しない視覚言語駆動システムに再編するのです。
別の言い方をすると、楽譜を「運指情報を記載した視覚言語」と割り切って、徹底的に速読する訓練をするのです。
少々刺激的な言い方をすると、「楽譜から音楽を読み取るな! ただ機械的に運指のみ読み取れ!」という事です。(あ、演奏の補助情報も少しは読み取ってね。)
これで、たぶん、弾けます。
●大人のための「酔狂メソッド」
以上をまとめたのが、上のチャートです。
今年(2015年)の2月上旬ぐらいまでは、何とか「暗譜して弾こう」と努力していました。しかし、どうしても、上手く弾けません。
2月下旬頃、開き直りました。「暗譜しなくたって、別に、いいじゃん! 子供の頃からやっていた人とは別のやり方を探そう!」と決めました。
その備忘録的チャートです。
※ピアノ力の残りの半分は、「音楽性」です。今回は、故意にチャートから「音楽性サブシステム」を抜きました。さて、そのココロは・・・。次回を括目して待て! 別に待ってる人はいないかぁ・・・。(笑)
2015.04.01 Wednesday
大人のピアノの学習メソッド:初心に帰って座る位置を見直す
●演奏姿勢はやはり大切
前回の記事で、「ピアノは目で弾け」という考え方を紹介しました。その是非はともかく、「楽譜をしっかり見ながら練習する」という事に異論は無いでしょう。
ところが、あくまでも私の場合ですが、知らず知らずのうちにピアノに近づきすぎていました。これが、「楽譜をうまく読めない」要因の一つだったのではないかと思います。
初心に帰って、座る位置を見直してみました。
●視線移動の観点から
試しに、ピアノの前で次のようにしてみてください。
「瞬間的」に元の場所が分かりましたか?
できないはずです。一瞬、視線が泳いで楽譜上の見ていた場所を探してしまうはずです。
これが、「楽譜を見ながら弾けない」大きな原因の一つです。
「楽譜を見ながら弾けない」とお悩みの方々、心当たり、ありませんか?
では、どうすればいいのでしょう? いろいろ、試してみてください。
すると、たぶん、次のようなことに気付くはずです。
やってみてください。首が上下に動くと、明らかに元の場所を見つけるのが遅くなります。
という事は、「部分ブラインドタッチ(=原則楽譜を見て、ときどき鍵盤をチラ見する)」を実践しよう、と考えると、着座位置が自動的に決まります。下のようにすればいいのです。
楽譜と鍵盤の間で自然に視線移動ができる位置まで体を引くと、あ〜ら不思議! 「腕が左右に自由に動く位置」で「背筋を伸ばしている」状態になります。これ、自分で気付いて、自分で「目から鱗」でした。(←何を今さら気付いているんだ!・・・と突っ込まれそう・・・笑)
※もちろん、首をギプスで固定したように絶対に動かすな、ということではありません。しかし、楽譜と鍵盤の間で首をヒョコヒョコ動かしながら演奏するピアニストは、まずお目にかかれません! (シロウトは、けっこう、いる・・・笑)
●譜面台の高さ
上の着座位置調整のテクニックを使うためには条件があります。それは「譜面台の高さ」です。
グランドピアノの場合、譜面台の高さは、ほぼ1mになります。この高さが原則です。
私のピアノYAMAHA C1Xで実測したら98cmぐらいでした。まあ、数cmは気にする必要は無いと思います。
しかし、大半の電子ピアノやアップライトピアノの場合、高さが足りません。このままでは「うつむき弾き」を助長してしまいます。
何らかの工夫をして譜面台の高さを1mにしてください。(以前にも同じ事を書いたのですが、例えば下のようにします。アップライトピアノでふたの裏が譜面台になるタイプの場合です。超カッコ悪いですが・・・笑)
ちなみに、もし私がこれからアップライトピアノを買うとしたら(グランド買ってしまったので、もう買いませんけど・・・笑)、この理由のためだけに、「グランドピアノ型譜面台」のある機種を買います。(電子ピアノでも、できるだけ譜面台位置の高い機種)
●足を組んでみよう
ピアノとの距離感をつかむために、もう一つの方法を思いつきました。
足を組んで、椅子に座ってください。その状態でピアノに近付いてください。当然、「ひざ」が当たって、これ以上、前に行けない位置があるはずです。
そこで、足を組んだまま演奏・・・してはいけません!(笑)
ちゃんと足を開きます。
すると、あ〜ら不思議! 先ほどの楽譜と鍵盤の視線移動から決めた着座位置と、ほぼ一致するではありませんか!
この状態で自分の足元を見ると、ひざ関節がピアノ前面のほぼ真下にあるはずです。(ピアノの前面を垂直におろしたラインが、ひざの前面から5cm〜10cmぐらいに来る感じです。)
これは、人体比率という考え方のちょっとした応用です。もちろん個人差がありますから、ベストポジションを探るために、少し前後に移動してみてください。
特に、足のスラッと長い八頭身美人の場合は、少し離れすぎかもしれません。私のような胴長短足のオヂサンとは違うと思いますので、調整は必要です。
とにかく、これに気付いてから、YouTubeとかで、プロやピアノの上手い人の「ひざ」の位置を注意して見るようにしてます。人によって、ひざが若干ピアノの下に入ったり、離れたりする事はありますが、ほぼこの位置です。
一方、「ピアノを独学で始めて数か月」とかの人の中には、ひざどころか、太腿が半分くらいピアノの下に潜り込んでいる例があります。ピアノに近すぎるのです。
※なお、身体のプロポーションが完成してない小さなお子さんの場合は、この方法は使えないかもしれません。その点はご注意ください。
●正しいピアノとの距離感が、読譜力や脱力に影響
上に書いたように、正しいピアノとの距離感が楽譜と鍵盤との視線移動を容易にし、読譜力向上のプラスになります。
さらに、ピアノとの距離感が適切だと、楽譜だけでなく鍵盤も見やすい! 楽に全体を見渡すことができます。
これは当たり前で、上下の視線移動がしやすい、ということは、鍵盤の左右の視線移動もしやすい位置のはずです。
何だか、客観的で冷静な演奏ができそうな気がしてきます。「鍵盤を見て弾く」という点からもプラスです。
それだけでありません。
この姿勢でわざと、鍵盤凝視弾き、うつむき弾きをしてみてください。
おそろしく前のめりになってしまって、腰に負担がかかります。無意識に体を起こしてしまいます。(さもなければ、ズルズルとピアノにすり寄って行ってしまいます。典型的な「悪い癖」です。)
あるいは、「腕の重みを鍵盤に乗せる」という感覚はどうですか? 少しピアノから離れている方が重みを乗せやすくありませんか? この「重みを乗せる」感覚が、脱力にプラスになっているはずです。
実は、「楽譜と鍵盤の視線移動から決めた位置」や「ひざを組んで決めた位置」は、「手や腕のフォームから決めた最適位置」とずれているかもしれません。このあたりは、ぜひともいろいろ調整してください。(正直、少し後ろすぎるかな、と感じる方もいると思います。)
ただし、上半身は容易に前後に動かせます。多少前かがみになるくらいなら、いかにも「パワー、入ってます!」で、まったく問題ないです。「今まで近すぎた」と思った方は、やや後ろの位置を試してみてもいいかもしれません。前のめりになりすぎた、楽譜に近づきすぎた、と思ったら、スッと背筋を伸ばせばいいのですから。
いずれにしても、着座位置は、演奏中は簡単には動かせません。安定した演奏姿勢は、おしり(笑)で決まるのです!
この、前後の着座位置、ピアノとの距離感は、想像以上に読譜力や演奏力に影響を与えているような気がします。
以上、些細なことですが、意外とこういう小さなところが「ピアノが弾けない」盲点になっているのかもしれません。
●ピアノはひざで弾け!・・・ってほどでもないかぁ(^^)
発表会などでは、「足を組んで座る」わけにはいきません。(笑)
ですから、正しい演奏姿勢をとった時の「ひざとピアノの前面との間隔」を覚えておくのです。
皆さん、発表会で自分の番が来ると、椅子の高さを直したり、前後に動かしたりしますが、緊張していてピアノに近付きすぎ、離れすぎになってしまい、それが原因で失敗してしまう事もあると思います。
演奏開始前に、落ち着いて、自分のひざを見ましょう。それで、きっと上手く弾けます。(ちょっとだけネ!)
前回の記事で、「ピアノは目で弾け」という考え方を紹介しました。その是非はともかく、「楽譜をしっかり見ながら練習する」という事に異論は無いでしょう。
ところが、あくまでも私の場合ですが、知らず知らずのうちにピアノに近づきすぎていました。これが、「楽譜をうまく読めない」要因の一つだったのではないかと思います。
初心に帰って、座る位置を見直してみました。
●視線移動の観点から
試しに、ピアノの前で次のようにしてみてください。
- どこでもいいから、楽譜の一点を見る
- 次に、うつむいて鍵盤をじっと5秒間、見る
- 顔を上げて、楽譜の元の場所を見る
「瞬間的」に元の場所が分かりましたか?
できないはずです。一瞬、視線が泳いで楽譜上の見ていた場所を探してしまうはずです。
これが、「楽譜を見ながら弾けない」大きな原因の一つです。
「楽譜を見ながら弾けない」とお悩みの方々、心当たり、ありませんか?
では、どうすればいいのでしょう? いろいろ、試してみてください。
すると、たぶん、次のようなことに気付くはずです。
- 鍵盤を見る時間を短くする(←まあ、これは当たり前)
- 首を動かさない。視線移動だけで鍵盤を見る(←こっちが重要!)
やってみてください。首が上下に動くと、明らかに元の場所を見つけるのが遅くなります。
という事は、「部分ブラインドタッチ(=原則楽譜を見て、ときどき鍵盤をチラ見する)」を実践しよう、と考えると、着座位置が自動的に決まります。下のようにすればいいのです。
楽譜と鍵盤の間で自然に視線移動ができる位置まで体を引くと、あ〜ら不思議! 「腕が左右に自由に動く位置」で「背筋を伸ばしている」状態になります。これ、自分で気付いて、自分で「目から鱗」でした。(←何を今さら気付いているんだ!・・・と突っ込まれそう・・・笑)
※もちろん、首をギプスで固定したように絶対に動かすな、ということではありません。しかし、楽譜と鍵盤の間で首をヒョコヒョコ動かしながら演奏するピアニストは、まずお目にかかれません! (シロウトは、けっこう、いる・・・笑)
●譜面台の高さ
上の着座位置調整のテクニックを使うためには条件があります。それは「譜面台の高さ」です。
グランドピアノの場合、譜面台の高さは、ほぼ1mになります。この高さが原則です。
私のピアノYAMAHA C1Xで実測したら98cmぐらいでした。まあ、数cmは気にする必要は無いと思います。
しかし、大半の電子ピアノやアップライトピアノの場合、高さが足りません。このままでは「うつむき弾き」を助長してしまいます。
何らかの工夫をして譜面台の高さを1mにしてください。(以前にも同じ事を書いたのですが、例えば下のようにします。アップライトピアノでふたの裏が譜面台になるタイプの場合です。超カッコ悪いですが・・・笑)
ちなみに、もし私がこれからアップライトピアノを買うとしたら(グランド買ってしまったので、もう買いませんけど・・・笑)、この理由のためだけに、「グランドピアノ型譜面台」のある機種を買います。(電子ピアノでも、できるだけ譜面台位置の高い機種)
●足を組んでみよう
ピアノとの距離感をつかむために、もう一つの方法を思いつきました。
足を組んで、椅子に座ってください。その状態でピアノに近付いてください。当然、「ひざ」が当たって、これ以上、前に行けない位置があるはずです。
そこで、足を組んだまま演奏・・・してはいけません!(笑)
ちゃんと足を開きます。
すると、あ〜ら不思議! 先ほどの楽譜と鍵盤の視線移動から決めた着座位置と、ほぼ一致するではありませんか!
この状態で自分の足元を見ると、ひざ関節がピアノ前面のほぼ真下にあるはずです。(ピアノの前面を垂直におろしたラインが、ひざの前面から5cm〜10cmぐらいに来る感じです。)
これは、人体比率という考え方のちょっとした応用です。もちろん個人差がありますから、ベストポジションを探るために、少し前後に移動してみてください。
特に、足のスラッと長い八頭身美人の場合は、少し離れすぎかもしれません。私のような胴長短足のオヂサンとは違うと思いますので、調整は必要です。
とにかく、これに気付いてから、YouTubeとかで、プロやピアノの上手い人の「ひざ」の位置を注意して見るようにしてます。人によって、ひざが若干ピアノの下に入ったり、離れたりする事はありますが、ほぼこの位置です。
一方、「ピアノを独学で始めて数か月」とかの人の中には、ひざどころか、太腿が半分くらいピアノの下に潜り込んでいる例があります。ピアノに近すぎるのです。
※なお、身体のプロポーションが完成してない小さなお子さんの場合は、この方法は使えないかもしれません。その点はご注意ください。
●正しいピアノとの距離感が、読譜力や脱力に影響
上に書いたように、正しいピアノとの距離感が楽譜と鍵盤との視線移動を容易にし、読譜力向上のプラスになります。
さらに、ピアノとの距離感が適切だと、楽譜だけでなく鍵盤も見やすい! 楽に全体を見渡すことができます。
これは当たり前で、上下の視線移動がしやすい、ということは、鍵盤の左右の視線移動もしやすい位置のはずです。
何だか、客観的で冷静な演奏ができそうな気がしてきます。「鍵盤を見て弾く」という点からもプラスです。
それだけでありません。
この姿勢でわざと、鍵盤凝視弾き、うつむき弾きをしてみてください。
おそろしく前のめりになってしまって、腰に負担がかかります。無意識に体を起こしてしまいます。(さもなければ、ズルズルとピアノにすり寄って行ってしまいます。典型的な「悪い癖」です。)
あるいは、「腕の重みを鍵盤に乗せる」という感覚はどうですか? 少しピアノから離れている方が重みを乗せやすくありませんか? この「重みを乗せる」感覚が、脱力にプラスになっているはずです。
実は、「楽譜と鍵盤の視線移動から決めた位置」や「ひざを組んで決めた位置」は、「手や腕のフォームから決めた最適位置」とずれているかもしれません。このあたりは、ぜひともいろいろ調整してください。(正直、少し後ろすぎるかな、と感じる方もいると思います。)
ただし、上半身は容易に前後に動かせます。多少前かがみになるくらいなら、いかにも「パワー、入ってます!」で、まったく問題ないです。「今まで近すぎた」と思った方は、やや後ろの位置を試してみてもいいかもしれません。前のめりになりすぎた、楽譜に近づきすぎた、と思ったら、スッと背筋を伸ばせばいいのですから。
いずれにしても、着座位置は、演奏中は簡単には動かせません。安定した演奏姿勢は、おしり(笑)で決まるのです!
この、前後の着座位置、ピアノとの距離感は、想像以上に読譜力や演奏力に影響を与えているような気がします。
以上、些細なことですが、意外とこういう小さなところが「ピアノが弾けない」盲点になっているのかもしれません。
●ピアノはひざで弾け!・・・ってほどでもないかぁ(^^)
発表会などでは、「足を組んで座る」わけにはいきません。(笑)
ですから、正しい演奏姿勢をとった時の「ひざとピアノの前面との間隔」を覚えておくのです。
皆さん、発表会で自分の番が来ると、椅子の高さを直したり、前後に動かしたりしますが、緊張していてピアノに近付きすぎ、離れすぎになってしまい、それが原因で失敗してしまう事もあると思います。
演奏開始前に、落ち着いて、自分のひざを見ましょう。それで、きっと上手く弾けます。(ちょっとだけネ!)
2015.03.21 Saturday
大人のピアノの学習メソッド:ピアノは目で弾け
●ノン・ラベリング型音感の大人
下のような過去二回の記事で、「曲がドレミに聞こえない大人(ノン・ラベリング型音感の大人)」のピアノの練習方法について考えてみました。 読み返してみると、我ながら冗長で分かりにくい。そこで、内容を整理した下のようなメモを作って、先日のレッスンの時に師匠に読んでもらいました。(これでも長いけど・・・笑)
●学習メソッド「ビアノは目で弾け」
●大人から始めた方のためのヒントになれば
上の文章は、本名を変えた以外、実際に持っていったメモそのものです。
師匠にも理解してもらえたようです。「そうよね。1年目は楽しくてしょうがないんだけど、2、3年で辞めてしまう方が多い・・・。でもそこを乗り越えると続く人が多んですよね」と、おっしっゃてました。とりあえず、この方向で練習をしてみたいと思います。
それはさておき、私のように大人からピアノを始めた場合は、練習してもなかなか上達しません。それは、「歳のせい」もあるかもしれませんが、「練習のやり方に問題がある」場合も多いと思います。ある程度、考えがまとまったら、その内容を「大人のピアノの学習メソッド」シリーズとして気長に書いていきたいと思います。皆さまの何かのご参考になれば幸いです。
下のような過去二回の記事で、「曲がドレミに聞こえない大人(ノン・ラベリング型音感の大人)」のピアノの練習方法について考えてみました。 読み返してみると、我ながら冗長で分かりにくい。そこで、内容を整理した下のようなメモを作って、先日のレッスンの時に師匠に読んでもらいました。(これでも長いけど・・・笑)
●学習メソッド「ビアノは目で弾け」
坂上酔狂 2015年3月18日
指使いの「覚え弾き」では限界がある→1曲しか、維持できない →不安定。ちょっとでも間違えたらおしまい →鍵盤凝視の演奏姿勢が最悪、自由に弾けない 大人の初心者 →楽譜がリアルタイム(インテンポ)で読めない/まったく読めない →だから、「覚え弾き」するしかない →1曲だけなら、弾けてしまう →しかし、いずれ限界を感じて辞めてしまう(おそらく1〜3年以内) 対処法は? →(1) ラベリング能力(曲がドレミに聞こえる能力)を鍛える事 →(2) 読譜力、ブラインドタッチ力をつける事 ラベリング能力があれば →曲をドレミの音の列として、頭の中で声を出して文章を読むように認識できる →「音のイメージ+運指」だけでなく「ドレミの音列」の補助情報が使える →暗譜が安定する。余裕が出てくる。スムースに弾けるようになる →ピアノの先生、子供の時にある程度やっていた方の大半はこのタイプと思われる →このタイプは、練習すれば、暗譜で何曲も弾けるようになる →指導/学習の初期段階で、このラベリング能力の素質があるか要チェック さもないと、(私のように)無駄な努力と時間を費やしてしまう ノン・ラベリング型の大人 →どう頑張っても、曲がドレミに聞こえない →数十年に渡って、曲をドレミとして聞かない強化学習をしてしまっている (純粋に音として聞いている。ドレミとして曲を聞こう、などという発想は無かった) →今さらラベリング能力を付けるのは実質的に不可能(特に30〜40才台以上) →ラベリング能力の欠如を読譜力で代替するしかない ノン・ラベリング型の練習法(ピアノは目で弾け) →まず、読譜力を徹底的に鍛える (ここで音を上げた大人は、厳しい言い方ですが、結局、挫折する) →鍵盤を全く見ない完全ブラインドタッチは大人(中高年)には厳しい 「チラ見はOK」の部分ブラインドタッチで妥協する →読譜力が付いてきたら、視線移動の訓練をする(←私はいまここ) (楽譜のリアルタイム読み、鍵盤チラ見=楽譜と鍵盤との間の高速視線移動) →暗譜してはいけない (これが最大のポイント) 暗譜すると「覚え弾き」に後退する。徹頭徹尾、楽譜を見て弾く事にこだわる →最初から両手弾きせよ 運指と同時に視線移動の訓練をするため。(片手弾きと視線移動が異なる) →音大、コンクール、プロには受け入れられない考え方である事は承知しています でも大人の初心者の大多数が「自由に楽しく」弾くためには、これしかありません |
●大人から始めた方のためのヒントになれば
上の文章は、本名を変えた以外、実際に持っていったメモそのものです。
師匠にも理解してもらえたようです。「そうよね。1年目は楽しくてしょうがないんだけど、2、3年で辞めてしまう方が多い・・・。でもそこを乗り越えると続く人が多んですよね」と、おっしっゃてました。とりあえず、この方向で練習をしてみたいと思います。
それはさておき、私のように大人からピアノを始めた場合は、練習してもなかなか上達しません。それは、「歳のせい」もあるかもしれませんが、「練習のやり方に問題がある」場合も多いと思います。ある程度、考えがまとまったら、その内容を「大人のピアノの学習メソッド」シリーズとして気長に書いていきたいと思います。皆さまの何かのご参考になれば幸いです。
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