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2012.04.04 Wednesday

大人の初心者ための知見(2)

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    前回の続きです。

    ・大人の初心者ための知見(1)

    ●読譜力の構成要素(再掲)

    「ピアノ脳」p.105-112に、初見演奏の能力差の要因が六つ挙げられています。

    (1) 15歳までの初見演奏の練習量
    (2) 左手を右手と同じくらい器用に使えるか
    (3) 楽譜上の視覚情報を素早く処理できるか
    (4) 楽譜を見て音を正確にイメージできるか
    (5) ワーキングメモリの大きさ(注:ワーキングメモリ=作業記憶。作動記憶。一時的な記憶)
    (6) 適切な指使いを素早く決められるか

    前回は、(3)と(5)に着目しました。

    そして、「(3)と(5)は、訓練によって大きくは変化しないという報告がある」という事から、素質として「読譜力が付きやすい人」はどういう人なのか、考えてみました。

    今回は、その続きです。

    ●ワーキングメモリの「大きさ」は変化しないが「使い方」は変化する

    「ピアノ脳」に、ワーキングメモリが大きくなくても、音符を効率良く覚える方法」がある、と書いてあります。それは、音階(スケール)、アルペジオ(分散和音)、和音をまとまりとして覚える事です。

    「ピアうま」の方にも、「簡単で同じような譜面」をたくさん見る事で、「音を一つ一つ認識していくのではなく、ある種の型やパターンとして認識することが可能になる」と書いてあります。

    両者はまったく同じことを言っています。

    もうちょっと具体的な例を出してみましょう。

    ●ブルクミュラー25の練習曲1番

    初級後半の定番教本、ブルクミュラー25の練習曲1番のLa candeur(邦名だと「素直な心」、「正直」)の冒頭部分です。

    これを、「譜読み」(可能なら「初見演奏」)する事を考えてみます。

    ブルクミュラー25の練習曲1番 La candeur

    (1) 初心者の場合

    まずは、最初のト音記号の8分音符4個です。知っている音から数えて行って、ソ→ミ→レ→ドと下がる事を確認します。鍵盤の位置も確認します。次に、指番号が書いてあるので、とりあえず、右手だけ弾いてみます。同じ音符なんで、同じ長さでしょう……たぶん。

    次にヘ音記号。これも数えてみて、ド、ミ、ソです。まあ、よく知っている和音です。指を鍵盤に当ててみて、指使いは5-3-1か、4-2-1か、ちょっと悩んで、5-3-1の方がラクそうなので、そうします。

    次に、両手で弾くんですが、なかなか綺麗に同時発声できません。しばし練習です。

    第一小節の後半の右手は、繰り返しです。そのくらいは見れば分かります。で、繰り返すんですけど、油断すると左手が離れてしまったり、右手につられて二度弾きしてしまいます。作曲しちゃってます。いけません。

    そんなこんなで、数分〜数十分ほど格闘して、やっと一小節です。

    えっ? ペダル? そんなものは踏んでる余裕はありましぇん。dolceの意味ですって? さあ、ドルセって何でしょうねえ。後で調べときます。


    (2) ある程度読める人の場合

    全体を眺める。

    4/4拍子、C-Dur(ハ長調)。

    臨時記号なし。よって黒鍵なし。

    右手、基本8分音符でメロディー進行。左手、小節毎の単純和音。

    最初の4小節、左手はC→F/C→C→C(タイで連続保持)の単純コード進行。このパターンだと、ドを5で取って、そこを基準とするのが原則。

    右手は、左と同じコード進行。下げは、3度→2度→2度→2度のよくあるアルペジオ進行。指使いは標準の5→3→2→1。上げは、2→1指くぐりのスケール進行。3小節目に一箇所3度上げあり、注意。

    2小節目冒頭を強めに弾いてクレッシェンドで落とす、小節間をベダルでつなぐ。

    出だしはp(ピアノ)、弱い音で、ドルチェ(優しい感じ)。

    概略分析OK。(自分の実力と相談して)演奏速度決定。

    視線移動を全体分析モードから連続演奏モードへスイッチ。

    手と指を、演奏開始位置へロック・オン。

    準備完了。

    脳内メトロノーム、スタート。

    演奏開始。

    多分、ここまでで数秒です。

    必ずしも明確に意識しているワケではありませんが、ほぼこのような認識と処理が脳の中で実行されているはずです。

    (ちとアニメ風にワルのりし過ぎかも・・・笑)


    私も最初は「初心者」状態でしたが、いまは「ある程度読める」状態に少し近づいてきたかな、というところです。

    この両者の違いはなんでしょう?

    ●初心者のワーキングメモリの使い方

    ワーキングメモリの「大きさ」は同じでも、一つのワーキングメモリに対応する情報の塊(チャンクと言います)の大きさが違うのです。

    初心者は、いち音いち音、音程と指使いを覚えたり考えたりするしかありません。 あっと言う間に、ワーキングメモリを使い切ります。 おそらく、この単純な曲でも、とりあえず1小節覚えるので精一杯でしょう。

    だから、いち小節いち小節、ひたすら繰り返して体に叩き込むような方法しかとれません。 初見演奏なんて、夢のまた夢です。

    技術レベルによる差は大きいと思いますが、最初の1小節に必要なチャンク(情報の塊)を数えてみましょう。(厳密な話ではなくて、「まあ、こんな感じ」という程度ですが)

    右手と左手のそれぞれの開始位置で2個。
    右手のソ→ミ→レ→ド(5→3→2→1)の指使いを覚えておくので1個。
    右手を等間隔に順番に動かす、ということで1個。
    右手を反復する、ということに1個。
    左手のド−ミ−ソ(5-3-1)の位置に1個。
    左手を押さえ続けるということで1個。
    ここまでで計7個です。

    有名なミラーの「マジカルナンバー7±2」によれば、「チャンク」は約7個であるとされています。 また、「おぼえる内容」によってこの数は増減します。 (複雑な内容ならチャンクは減る。しかもこの数字は若者の場合。子供や高齢者ではもっと少ないそうです。)

    というわけで、1小節を「単純に弾く」だけで、ワーキングメモリは満杯です。

    ここに、「優しい感じで」とか、「音を滑らかにつなげて」とか、「右手のメロディーを歌って」とか言われても、それは、脳の処理能力上、無理です。

    ピアノの指導者が、(たぶん熱意・親切心から)上のようなことを初心者に要求するのは、実は、不可能を要求しているのです。

    ●ある程度読める人のワーキングメモリの使い方

    ところが、楽譜が読めるようになってくると、非標準的な箇所以外は、もう、いち音いち音は覚えてません。音の進行と指使いのライブラリが長期記憶の中に既にあって、そこを指し示すポインタだけ覚えておけばいいのです。

    例えば、最初の1小節に出てくる右手と左手の和音と音の進行は、「よく出てくるワンパターン」なので、これを覚えるためのチャンクは、2個ぐらい、熟達者ならたぶん1個で大丈夫です。 音型を見てCのワンパターン・アルペジオと認識しただけで、あとは特に意識することなく指使いまで自動的に処理されます。

    言わば、記憶の省エネ化です。

    上の能力差の要因の「(6) 適切な指使いを素早く決められるか」は、まさにこの事を言っているのだと思います。

    ●音の進行と指使いのライブラリ

    だから、読譜力を鍛えるためには、この「音の進行と指使いのライブラリ」を鍛えることが必須です。

    単に、「パッと見て音が分かる」だけでは、ダメです。

    恐らく、ここを多くの人が誤解しています。 「譜面上の音が分からないから楽譜が読めない」のではなくて、「音の進行と指使いのライブラリが貧弱だから楽譜が読めない」のです。

    「ピアうま」にも「ピアノ脳」にも、この「音の進行と指使いのライブラリ」に関して、ほぼ同様の事が書いてあります。

    そして、音の進行と指使いのライブラリを鍛えるためには、いろいろなパターンの単純な譜面を繰り返し練習する事です。(少数の複雑な譜面をいくら読んでも、「音の進行と指使いのライブラリ」は鍛えられない。)

    ●知見「読譜力を鍛えるためには、頭の中に音の進行と指使いのライブラリを作ること」

    これは、大人でも、≪適切な≫努力と練習次第で、できます。



    しつこく、続きます(笑)。
    コメント
    初のコメント失礼します。

    去年ピアノを始め、色んなサイトを拝見しましたが、こちらが1番、納得感がありました。
    あまりの分かりやすさに、過去に遡って大半の記事を読ませて頂きましたw

    コンピュータ系のエンジニアなので、中でもこの記事は断然分かりやすいです。
    恐らく、国内の大人ピアノ練習に関して、最先端だと思いますw
    • モル作
    • 2015.06.08 Monday 10:23
    モル作さま
    管理人の酔狂です。コメント、ありがとうございます。

    ずいぶん、前の記事にコメントが付きました。私のBlogをたいへん丁寧にお読みいただいたようで、ありがとうございます。

    > コンピュータ系のエンジニアなので、中でもこの記事は
    > 断然分かりやすいです。

    私もコンピュータ屋(プログラミング大好き人種)なので、人間が楽譜を読んで演奏する事と、CPUが(あるいはCPUのエミュレーターを脳内に一匹飼っている人間が)コードを読んで実行する事の類似性は、けっこう「ある」のでは、と思っています。

    この記事は、少々「悪乗り」して書いたのですが(ちょっと古いけど微妙にガンダム風)、実際、ピアノの熟練者が一瞬にして行っている「譜読み」って、「こんな事なのかな」と想像しながら書きました。多少なりとも、ご参考にしていただければ、とても嬉しく思います。

    > 恐らく、国内の大人ピアノ練習に関して、最先端だと思
    > いますw

    いえいえ、それはあまりに過大なお褒め言葉です。(笑)

    でも、皆様のコメントを励みにして、このBlogとピアノを続けることができました、今後とも、よろしくお願いします。
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