●ピティナ・ピアノステップの開催データ
前々から、ピアノ継続率(挫折率)の客観データが見てみたい、と思っていました。しかし、なかなかそういうデータはありません。
あるとき、PTNA(ピティナ/一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)のWebサイトを見ていたら、PTNAがやっているピティナ・ピアノステップの開催記録を見つけました。
「ピティナ・ピアノステップ」というのは、簡単に言うと、
- 導入1から展開3まで段階別になった23ステップの課題曲(以下「ステップ」と略)
または、
- フリーステップといって、3分、5分、7分、10分、12分、15分の自由曲(以下「フリー」と略)
のいずれかをステージ上で演奏し、講師の先生方から評価してもらう、というものです。
(詳しくは、
PTNAのWebサイトを参照してください。開催記録データの出典も同サイトになります。)
このPNTAのサイトに、過去約一年分、2万件超の開催記録(ステップやフリーの区分、曲名など)が載っています。これを根性で数えてみました。
(2014/2/1〜2015/1/12のデータ22,850件)
●開催データから見る段階別人数
下の表とグラフがその結果です。
件数としてステップとフリーがほぼ同じくらいなので、無理を承知で二つのデータを合体させてあります。(そうしないと、全体像が見えないので)
表とグラフの読み方の説明です。
段階 |
私が独断と偏見で付けた上達の段階 |
全音分類 |
全音の楽譜の最後に載っている難易度表 |
PTNAステップ |
私が「えぃ!やぁ!」で決めた上達の段階とステップの対応。なお数字は、一番件数の多い「初級前半」のステップとフリーの合計を100%とした時の相対比率です。 |
PTNAフリー |
こちらも、私が「シュワッチ! アタタタタ!」で決めた上達の段階と演奏時間の対応。正直言って、こちらは超イイカゲンです。例えばフリー3分だと、いかにも「バイエル程度」で弾きそうな曲も多いのですが、かなり難しそうな曲も含まれています。フリー7分以上は基本的には中級から上級の曲になります。本当は一曲一曲レベルを判定すべきなのですが、まあ、あくまでも目安という事でドンブリ勘定です。 |
比率 |
ステップとフリーを合計した件数の相対比率です。一番件数の多い「初級前半」を100%としてあります。 |
代表的教本 |
全音の難易度表やピティナ・ピアノステップの説明から、適当に抜粋しました。 |
なお、J、Gは基本的に子供と大人の区別です。PNTAのサイトによると次のような区分けになっています。まあ、中高生が微妙ですが、元データに中高生の区別が無いので、どうしようもありません。
- J (ジュニアステージ) 就学前の幼児、小学生、中学生、高校生など
- G (グランミューズステージ) 大学生、社会人、ピアノを始めたばかりの中学生、高校生など
●注意点・・・数字は目安
(1) データの信頼度はあまりありません
上達の段階と、ステップやフリーの区分の対応は、私の独断と偏見でつけたものです。合理的な根拠は乏しいです。
ピアノを習っている人がすべてPTNAのステップに来るはずもありません。あくまでも、限られた範囲のデータです。
また、私が「数え間違い」をしている可能性もあります。
(2) この表の数値は、「継続率(挫折率)」にはなっていません
記事のタイトルと矛盾しますが、表やグラフの中の何パーセントというのは、継続率にはなり得ません。
これは、次のようにして考えると、すぐ分かります。
例えば、あるピアノ教室のクラスの人数が次のようになっていたとします。
初級 100人
中級 100人
上級 100人
これで、「おお素晴らしい! 継続率100%ではないか!」と言っているようでは、いけません。上級になればなるほど、「時間がかかる」はずです。例えば、クラスを卒業するのに必要な平均的な期間が次のようになっているとします。
初級 1年
中級 2年
上級 5年
という事は、「1学年あたりの人数」を考えると、次のようになります。
初級 100人
中級 50人
上級 20人
はい。しっかり、挫折してます(笑)。
「じゃあ、この数字は何だ」と言うと、あくまでも、
ピティナ・ピアノステップに来た人の「区分の構成割合」です。
(3) 子供のデータが圧倒的に多い
ピティナ・ピアノステップの受講者は、圧倒的に子供が多いです。上級になると大人が増えてきますが、私の興味のある「大人のピアノ」に、このデータを直接適用する事には慎重になった方がよさそうです。
(4) そもそも継続したから上達するとは限らない
あたり前の事ですが、
継続したから上達するとは限らないです(^^)。
今回の記事は(も)、もともと制約と曖昧さの多いデータを使った「屁理屈」なので、「継続=上達」と短絡的に決めつけないでくださいね。(まあ、それなりに相関関係はあると思いますが)
●それでも、データから読み取れることはある
以上述べたように、このデータは信頼性に乏しく、かつ、限定的なものです。
また、特定の個人の上達を継続的に追跡したものでもありません。
しかしそれでも、データから読み取れることはあります。
以下、かなり危うい「推測」、あるいは、「作業仮説」に過ぎませんが、いくつか書いてみましょう。
(1) 初級後半に壁がある
初級前半から後半にかけて件数が半減しています。これはおそらく、昔、私が「
バイエル80番台の壁」と呼んだものだと思います。代表的な教本だと、バイエル後半からブルクミュラー25の練習曲に入るあたりで難易度が急上昇します。これについていけない者が半数程度いる、という事だと思います。
(2) 中級前半にも壁がある
教本で言うと、インベンション、ツェルニー30番に入るあたりです。ここで再び件数が半減します。子供さんの場合は塾や中学受験や部活などで忙しくてピアノとの両立が難しくなる時期です。
これ以降も、子供の件数は減少し続けてしまいます。
(3) 大人の場合は、中級までたどり着ければ継続できる可能性が高い
ところが面白い事に、大人(表・グラフ中の「フリーG」の部分)は初級後半以降、むしろ増えています。
さきほど書いたように、このパーセンテージはそのまま「継続率」とする事はできませんが、中級までたどり着ければ、そのまま継続できる可能性がかなり高い・・・のかもしれません。
あるいは、子供からやってきた方が大人に
なったのでステップからフリーに鞍替えした、または、子供の時に中級以上まで進んでいた方が大人になってふたたび再開した、というケースが、けっこう含まれていると思います。
(4) 中級後半から上級に行けるのは1割いるかいないか
「真の継続率」は、たぶん、この表・グラフの数字より下がると思います。最終的に、ピアノがある程度自由に弾けるレベル、すなわち、中級後半から上級まで上達するのは、最初に始めた人の1割いるかいないか・・・だと思います。
厳しいですが、これが現実です。(多分)
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これ以上の事は、推察するにしても、なかなか難しいです。(2015/02/01追記。思い直して、もう少し、屁理屈を展開してみる事にしました。次の記事です。)
PTNAや大手音楽教室は、こういった「継続率」を評価するデータや、継続率を改善するためのノウハウを持っていると思います。そういったデータや分析結果を公開して頂けると、私のような「大人のピアノ」の学習者は大変助かるのですが・・・無理でしょうかねぇ。(企業秘密かも・・・笑)
今回は、このあたりで。
P.S.
この記事をまとめた後で気づいたのですが、PTNAのサイトにも以下のようなページがありました。ご興味のある方は、探してみてください。
PTNAのホーム > ピアノコンクール > ニュース(2014/10/3付)
「コンペデータから見るピアノ継続のポイント」