ゼロからでもピアノは弾ける

趣味ではじめた大人のピアノの記録。2004年に45才でバイエルからスタートしてクラシックの原曲に挑戦中。消音ピアノの活用や練習のヒント、工夫など。気が付けばピアノ歴10年越えです、相変わらず、下手です。はぁ・・・(^^)
全記事の総合目次 いままでの記事がすべて整理してあります。
SONY MDR-F1の後継ヘッドホンは?
●なぜフルオープンエア型ヘッドホンか?

以前の記事で、「消音ピアノ用にはフルオープンエア型ヘッドホンがよい」とお勧めした事があります。 その理由を改めて述べてみます。

  1. ピアノの音色には、弦の発する音だけでなく、アクション(鍵盤機構)の発する雑音も混じっている。 この雑音の音量は意外と大きく、その大小が、ピアノの音色の固い・柔らかいに反映しているはず。
  2. 消音ピアノの音にもアクションの雑音は含まれていると思うが、たぶん、抑えられている。(超上手い打鍵の音をサンプリングしているのでしょうから)
  3. だから、下手くそが下手くそに打鍵しても、きれいな音色になってしまう。
  4. ところが、外部の音がまる聞こえのフルオープンエア型ヘッドホンを使えば、生ピアノのアクションの音が聞こえる。
  5. これは、ピアノのタッチの訓練に大いに役立つ。


そして、フルオープンエア型ヘッドホンとして当時唯一の製品であったSONY MDR-F1をお勧めしました。この製品、軽いし、耳に負担をかけないし、音質もいいし、とても良い製品でした。

MDR-F1
上の写真は、現在使用中のもの。

ところが、このMDR-F1が製造中止になってしまったのです。

●SONY MDR-MA900はMDR-F1の後継か?

2012年4月に、SONYから新たなフルオープンエア型ヘッドホンとして、MDR-MA900が発売になりました。

実は、発売直後に買いました。(物欲にすぐ負けます)



(参考:SONYのサイトにある開発者インタビュー)



その使用感ですが、結論から言います。う〜ん、微妙です。

【良くなった点】
  1. 音質は、確かによくなりました。 低音の迫力、高音の抜けなどは、聞き比べればすぐ分かります。


【悪くなった点】
  1. ヘッドバンドの形状が変更され、装着しにくくなりました。 MDR-F1は、フリーアジャストヘッドバンドになっていて、なにも考えずにスッとかぶればよかったのですが、MDR-MA900は、いちいちヘッドバンドを出し入れして長さを調整しないといけません。 しかもせっかく調整した長さが、すぐ、ずれます。 この欠点は、けっこう大きいです。
  2. 耳パッドの材質が、MDR-F1ではビロード状のもので快適でしたが、MDR-MA900では布状のものに変更されました。 開発者インタビューには音質うんぬんと書いてありますが、少なくとも私にとっては、付け心地が悪くなりました。


この二つの製品のうち、どちらを選ぶか、と言われれば、私なら旧タイプのMDR-F1を選びます。 実際、普段使っているのもこちらです。

●他に候補は無いのか?

他には消音ピアノ向きのヘッドホンは無いのでしょうか?

残念ながら、フルオープンエア型は、ありません。(多分)

フルオープンエア型に準ずるものとして、オープンエア型があります。 これは、耳を覆う構造になっているのですが、完全には密閉はされていないので、音が自由に出入りできるというものです。

代表的なところでは、オーディオテクニカの製品群などがあります。



私が持っているのは旧タイプのATH-AD700という製品ですが、今ですと、ATH-AD700Xに相当します。



このATH-AD700でも悪くは無いのですが、欠点があります。(現行のATH-AD700Xの感想ではないのでご注意を)

  1. SONYのMDR-F1/MDR-MA900に比べて、「ドンシャリ系の作った音」、すなわち、迫力を出すために高音域や低音域を強調している傾向がある。(あくまでも私の耳にそう聞こえるという話) 音楽鑑賞用としては「好み」の問題であるが、ピアノの練習用としては、「ひたすら素直な音」が欲しい。
  2. 外部の音の聞こえ方が、フルオープンエア型に比べて、やや劣る。
  3. ちょっと重い。
  4. 耳パッドが耳たぶに当たっているので、長時間かけていると、耳が痛くなってくる。 これは、店頭で試聴するだけでは、なかなか分からない。


オーディオテクニカの場合、型番違いで安いのから高いのまで揃ってますが、安いものでもそこそこの音質です。(一番安いATH-AD300も、持ってたりします。いったいいくつ買えば気が済むのでしょう?)

他にも、ゼンハイザー、ローランド、ヤマハなどからもオープンエア型ヘッドホンは発売されており、試聴した事もあるのですが、いずれも、耳パッドが耳たぶに当たったり、圧迫感が強かったりして、私としては購入意欲が湧きませんでした。







●これから買うとしたら?

正直、困りますねぇ。

まあ、SONYのMDR-MA900でしょうか?

実際に買うとしたら、店頭でじっくり試聴したり、ネットのレビューを参考にしてください。

その際、音質だけではなくて「長時間かけていて疲れない」事が絶対条件ですから、この点に注意してくださいね。 さもないと、私のように、使わない無駄ヘッドホンのコレクターになってしまいます。
| 坂上酔狂 | 消音ピアノ&IT活用 | 09:33 | comments(4) | trackbacks(0) | - | -
ピアノが弾けない時のために
●実力低下は意外と小さい

長いピアノ・ライフの中で、いろいろな事情で「ピアノが弾けない」という時期があると思います。

私の場合、「腰痛+足痛+プライベートなゴタゴタ」で、この約3ヶ月ほどピアノに全く触れませんでした。

最近、ようやくピアノに復帰したのですが、さぞや下手になっただろうと思いきや、そうでもありません。 いやその、もともと下手だったんだから下手になりようが無いだろう、という話じゃなくて、あくでも、3ヶ月前と比べた相対値の話です。

その理由や状況の要点を列挙してみましょう。

●指体操

あちこち痛いので、毎日お風呂につかりながら、足腰をマッサージしていました。

その時、指の独立を失わないように、指体操を続けていました。 時間は5分ほどでしょうか。

これが、体のメカニックな落ち込みを最小限に留めた最大の理由だと思います。

いろいろなパターンがあるのですが、一つだけ、紹介しましょう。

まず、次の図のように、「ニャンコの手」にします。 (絵が下手だ、というツッコミは、無しでよろしく)

そして、【一本だけ】、指を伸ばします。 これ、けっこう、キツイです。 人差し指は誰でも出来ると思いますが、他の指は、相当しんどいです。

これを、「左右同時」に、「違う指」でやってみてください。

ほら、そこの奥さん、お父さん、読んでるだけじゃダメです。 やってみましょう! けっこう、「きます」よ、これ。



●読譜力

楽譜もロクに見なかったのですが、読譜力はほとんど落ちませんでした。 これは、意外でした。

超ユックリですが、楽譜見ながら、弾けます。

このBlogの過去ログを読んでくださった方は分かると思うのですが、私は、ピアノを始めた当初は楽譜がまったく読めませんでした。

それを長い事こつこつと努力して、数年前から、何とかゆっくりと読める状態にまで持ってきました。

そして、長い時間かけて養った力は、数か月程度のブランクではほとんど落ちません。

よく言われることですが、自分自身の経験として、確認できました。

●指の独立と読譜力があれば、復帰は容易

んでもって、指が動いて、楽譜が読めるんだから、復帰はスイス〜イ、ってほどでもありませんが、まあ大丈夫でした。

実はこの二つ、ピアノに挫折しないためのポイントだと思います。

これが、「指は動かない」、「また、一つひとつ音を拾って暗譜しないといけない」という状態だと、おそらく、イヤになってしまいます。

指の独立と読譜力、これさえ維持できていれば、いつでも再スタートできます。



と、以上なんですが、今回は、なんかパワー入ってない文章ですね・・・。 まだ、体調イマイチなんで、今回は、このあたりで。
| 坂上酔狂 | ピアノ練習のヒント | 22:17 | comments(2) | trackbacks(0) | - | -
ピアノ復帰!
久々の更新です(^^;)

前の記事にも書きましたが、昨年(2012)の春先から腰痛に悩まされるようになりました。最初は腰だけだったのですが、そのうち足も痛くなってきたり、体調全般が悪くなってきて、日常生活や仕事にも支障が出る状態になってしまいました。

悪い時には悪い事が重なるもので、プライベートでもたいへんな事が続き、ピアノの練習時間がずるずると減って行ってしまいました。そして昨年暮れには、9年近く続けていたレッスンもお休みして、ピアノにまったく触らない日々が続くようになってしまいました。

はっきり言って、「挫折の危機」です。

しかし、どうやら最悪期は脱したと思います。プライベートの方は一段落つきましたし、体調も、少なくともこれ以上の悪化は避けられそうです。

(このBlogは、闘病記でも愚痴Blogでもありませんから、ボヤキはこのくらいにしておきます)

というワケで、ピアノ、復帰します。

この間、このBlogにコメントをくださった方々、ピアノの先生A師匠、友人知人にもずいぶん励まされました。心からお礼を申し上げたいと思います。

実は、先週の3月13日、久々のレッスンに行って参りました。やっぱり、教室のグランドピアノを弾くと、気分いいです。内容はボロボロでしたけど・・・(笑)

さて、Blogの方も、酔狂流屁理屈(←どうもコレを期待している人が多いみたい)を再開したいと思います。

内容は・・・どうしましょう? ぜんぜんピアノ弾いてないので、ネタ無いんですけど。

そうだ、逆転の発想で、「ピアノを弾けない時にどうするか」というヨタ話にでもしましょう。

体調万全とはいかないので、更新はゆっくり目ですけど、よろしくお願いしますね。
| 坂上酔狂 | 雑記帳 | 09:06 | comments(4) | trackbacks(0) | - | -
近況報告:健康のありがたさ
いつも屁理屈ばかり書いていますが、たまには、とりとめのないお話でも。

実は、ちょっと体調を崩していて、ピアノから遠ざかっています。右脇腹を中心にちょっとキツめの神経痛が出てしまっていて、これがけっこうつらい。はっきり言って、日頃の不摂生のツケなのですが、今更ながらに反省モードです。(もちろん病院にも行って、いろいろ検査して薬も飲んでいるのですが、どうやら長期戦の様相です)

それにつけても、健康のありがたさを痛感します。普通にピアノの前に座って、ピアノが弾ける、という事は、それだけで十分「幸せ」なのです。うまく弾けないの、どーのこーのと文句が言えるのは、実は、たいへん贅沢なことなのです。

痛くてピアノがなかなか弾けなくて、あらめて実感します。

あんまり弾かないと、もともと大したことがないヘタピが、ますます下手になってしまいますから、痛みを騙しだまし、ピアノに向かおうと思っています。

あ、そうだ!

「大人から始めて弾けるようになるか」というQ&Aに新しい第一条件を付け加えましょう。

『健康であること! そして健康であることを大切にし、感謝すること!』

| 坂上酔狂 | 雑記帳 | 16:49 | comments(19) | trackbacks(0) | - | -
大人の初心者ための知見(3)
続きです。

大人の初心者ための知見(1)
大人の初心者ための知見(2)

●今回は、読譜力とブラインドタッチ/鍵盤感覚について

これまでの二回の記事で、次の二冊の本の内容から、主に読譜力についてどんな知見が得られるのか、考えてみました。 今回は、その続きです。 私が考えたことも含めて、書いてみたいと思います。

「ピアノがうまくなるにはワケがある: 努力よりコツ!」 (角聖子 著)
略称「ピアうま」


「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム」 (古屋晋一 著)
略称「ピアノ脳」


実は、ブラインドタッチ/鍵盤感覚についての記事が、「ピアノ脳」の方にはあまり書かれていません。

ちなみに、ブラインドタッチとは、「鍵盤を見ないで弾く事」です。 当然、「鍵盤感覚」が必要です。

一方、「ピアうま」の方には、ブラインドタッチの重要性が大きく書かれています。(例えば、p.53-57)

あたり前の話ですが、「鍵盤を見ないと弾けない」状態では、楽譜を見ながら弾けません。 ある程度はブラインドタッチができる事が、読譜の前提となります。

ただし、絶対に鍵盤を見てはいけないのか、というと、「ピアうま」のp.54に「あくまでも、視線が指先にくぎ付けになる状態から自由になること」だと書いてあります。

あるいは、私の師匠のA先生曰く「基本的に楽譜を見ていて、鍵盤が何となく視界に入っている状態が理想」なんだそうです。

二人の先生は、基本的に同じ事を言っているのだと思います。

実は、ここが『大いなるクセ者』なのです。

何が言いたいかというと、ブラインドタッチでも、「チラ見」はOKという事です。 でも、「チラ見」のやり方が難しいのです。

●比較的容易にブラインドタッチができる範囲

手や指の左右の移動が無い「ナチュラルポジション」の範囲では、基本的に鍵盤を見る必要はありません。

また、指の幅を変える場合でも、3度(隣の隣)の鍵盤への移動は、比較的簡単です。

この二つは、例えばハノンの練習で身に付きます。 (ハノンの1番〜20番は、ハ長調(白鍵のみ)であれば、目をつぶっても弾けるようになります)

難関の指くぐりですが、これはスケール(音階)の練習で身に付きます。

オクターブの感覚も、いろいろな曲に出てくるので、だんだんと親指と小指(or薬指)がオクターブの幅をつかめるようになっていきます。

ここまでは、ほぼ、ブラインドタッチの状態に持っていけます。

問題は、この先です。

●「チラ見」の弊害が出てくる段階

上で述べたように、2度(隣の鍵盤)、3度(隣の隣)、8度(オクターブ)といった基本的なポジションは、比較的容易にブラインドタッチが習得できます。

ところが、この三つ以外が難しいのです。

特に、指を大きく広げたり跳躍したりする場合は、初心者の場合は、見ないと弾けません。

しかし、楽譜から完全に視線を外してはいけません。 その時点で、楽譜を読む作業が中断してしまいます。 最悪、どこを弾いていたか、分からなくなってしまいます。

そこで、鍵盤を「チラ見」するのですが、たとえ「チラ見」であっても、かなり有害です。

そして、【ここが重要】「チラ見の弊害が顕在化するのは、ある程度、読譜力が付いてきた段階」なのです。

●なぜ「チラ見」が有害なのか

前二回の記事でも書きましたが、読譜のためには、先読みが重要です。 先読みした音符が脳の中のパイプラインで順次処理されていって、最終的に指や手の運動に変換されます。

この時、鍵盤をチラ見をしてしまうと、パイプラインの動きが乱される・・・最悪、パイプラインが止まってしまいます。すると、拍感覚が壊れてしまって、曲が流れなくなってしまいます。

しがって、チラ見をするにしても最小限に、主たる注視点は楽譜上において、鍵盤の方は出来るだけ「周辺視野」で見るようにしないといけない、と思います。

●最初は「チラ見」の弊害が見えない

ところが、初心者の場合、そもそもパイプラインが出来ていませんから、チラ見しようがしまいが、曲になっていません。一音一音、順番に弾いているだけです。 この時点では、チラ見の弊害はほぼ認識されません。

そして、ある程度は楽譜が読めるようになり、超スローペースで1、2音の先読みができる状態になっても、まだ、チラ見の弊害は見えません。 脳の処理時間に余裕があるからです。

むしろ、チラチラ見る事で始めて曲が弾けるので、チラ見必須です。 「ピアうま」には「鍵盤を指先で探れ」と書いてありますが、これをやると、曲(歌、メロディーの流れ)が止まってしまいます。

たとえゆっくりでも拍を止めずに曲を弾く事と、鍵盤感覚を訓練することが相反関係になっていて、ついつい前者を優先してしまいます。

●インテンポ読譜に近づくと「チラ見」の弊害が一気に顕在化する

ところが、先読みの範囲が広くなり、ある程度インテンポ(本来の演奏速度)に近いスピードを出せるようになってくると、チラ見の弊害が一気に顕在化します。

要するに、「へなちょこパイプライン」が出来かかっている状態で「チラ見」をすると、パイプラインが即故障。演奏停止になってしまうのです。

なんたって、「へなちょこ」なんで、僅かな乱れで「なに弾いてんだかワケわかんない」状態になってしまうのです。

かといって、まだ鍵盤感覚が不完全なので、チラ見しないと音が取れません。 ものすごくイライラします。

結果として、どうしてもスピードが上がらない、あるいは、スピードを上げるとミス連発、という状態になります。

そこで、ブラインドタッチ/鍵盤感覚の重要性を再認識するのですが、「なるべく鍵盤を見ないように意識しながら数をこなす」以外の練習法が思いつけません。

楽譜が読めない大人の初心者にとって、「いわゆる初級レベルの楽譜をインテンポで弾ける」という事が、遠大な「夢」だと思います。(初見でサラサラという贅沢は言いません、多少はゆっくりでも構いません。でも、楽譜を見てそこそこ弾けるようになるのが、大いなる憧れなのです。)

そこに向けての最後の壁です。

●初心者状態から「ブラインドタッチ」で練習する事は有用か?

これは、有用です。断言できます。

角先生の持論でもあります。

ただ、読譜力に関して言えば、問題はむしろ基本的なポジション(2度、3度、オクターブなど)のブラインドタッチよりも、応用的なポジションのブラインドタッチの習得です。

あいるは、効果的な「チラ見」の習得、と言い換えてもよいかもしれません。

「ピアうま」には、盲目のピアニスト辻井伸行さんの話が出てきますが、これは例外的な才能の持ち主の場合です。

凡人ピアニストにとっては、やはりある程度は鍵盤を見る事が必要だと思います。 だから、「いかに鍵盤を見るか」という事が重要だと思います。

●知見(というか、お願い) インテンポ読譜ためには「良きチラ見」を習得せよ

ピアノ指導者の皆様。 ぜひ、以下の練習法(精神論・理想論ではなく現実的な時間と労力で実行可能な方法)を教えてください。

(1) 読譜を乱さない「チラ見」の方法

(2) レベルに応じて「チラ見」をだんだんと減らす方法

話が中途半端で申し訳ありませんが、この事が私にとっての現在の最大の課題なのです。
| 坂上酔狂 | 「大人のピアノ」私論 | 10:02 | comments(10) | trackbacks(0) | - | -
大人の初心者ための知見(2)
前回の続きです。

・大人の初心者ための知見(1)

●読譜力の構成要素(再掲)

「ピアノ脳」p.105-112に、初見演奏の能力差の要因が六つ挙げられています。

(1) 15歳までの初見演奏の練習量
(2) 左手を右手と同じくらい器用に使えるか
(3) 楽譜上の視覚情報を素早く処理できるか
(4) 楽譜を見て音を正確にイメージできるか
(5) ワーキングメモリの大きさ(注:ワーキングメモリ=作業記憶。作動記憶。一時的な記憶)
(6) 適切な指使いを素早く決められるか

前回は、(3)と(5)に着目しました。

そして、「(3)と(5)は、訓練によって大きくは変化しないという報告がある」という事から、素質として「読譜力が付きやすい人」はどういう人なのか、考えてみました。

今回は、その続きです。

●ワーキングメモリの「大きさ」は変化しないが「使い方」は変化する

「ピアノ脳」に、ワーキングメモリが大きくなくても、音符を効率良く覚える方法」がある、と書いてあります。それは、音階(スケール)、アルペジオ(分散和音)、和音をまとまりとして覚える事です。

「ピアうま」の方にも、「簡単で同じような譜面」をたくさん見る事で、「音を一つ一つ認識していくのではなく、ある種の型やパターンとして認識することが可能になる」と書いてあります。

両者はまったく同じことを言っています。

もうちょっと具体的な例を出してみましょう。

●ブルクミュラー25の練習曲1番

初級後半の定番教本、ブルクミュラー25の練習曲1番のLa candeur(邦名だと「素直な心」、「正直」)の冒頭部分です。

これを、「譜読み」(可能なら「初見演奏」)する事を考えてみます。

ブルクミュラー25の練習曲1番 La candeur

(1) 初心者の場合

まずは、最初のト音記号の8分音符4個です。知っている音から数えて行って、ソ→ミ→レ→ドと下がる事を確認します。鍵盤の位置も確認します。次に、指番号が書いてあるので、とりあえず、右手だけ弾いてみます。同じ音符なんで、同じ長さでしょう……たぶん。

次にヘ音記号。これも数えてみて、ド、ミ、ソです。まあ、よく知っている和音です。指を鍵盤に当ててみて、指使いは5-3-1か、4-2-1か、ちょっと悩んで、5-3-1の方がラクそうなので、そうします。

次に、両手で弾くんですが、なかなか綺麗に同時発声できません。しばし練習です。

第一小節の後半の右手は、繰り返しです。そのくらいは見れば分かります。で、繰り返すんですけど、油断すると左手が離れてしまったり、右手につられて二度弾きしてしまいます。作曲しちゃってます。いけません。

そんなこんなで、数分〜数十分ほど格闘して、やっと一小節です。

えっ? ペダル? そんなものは踏んでる余裕はありましぇん。dolceの意味ですって? さあ、ドルセって何でしょうねえ。後で調べときます。


(2) ある程度読める人の場合

全体を眺める。

4/4拍子、C-Dur(ハ長調)。

臨時記号なし。よって黒鍵なし。

右手、基本8分音符でメロディー進行。左手、小節毎の単純和音。

最初の4小節、左手はC→F/C→C→C(タイで連続保持)の単純コード進行。このパターンだと、ドを5で取って、そこを基準とするのが原則。

右手は、左と同じコード進行。下げは、3度→2度→2度→2度のよくあるアルペジオ進行。指使いは標準の5→3→2→1。上げは、2→1指くぐりのスケール進行。3小節目に一箇所3度上げあり、注意。

2小節目冒頭を強めに弾いてクレッシェンドで落とす、小節間をベダルでつなぐ。

出だしはp(ピアノ)、弱い音で、ドルチェ(優しい感じ)。

概略分析OK。(自分の実力と相談して)演奏速度決定。

視線移動を全体分析モードから連続演奏モードへスイッチ。

手と指を、演奏開始位置へロック・オン。

準備完了。

脳内メトロノーム、スタート。

演奏開始。

多分、ここまでで数秒です。

必ずしも明確に意識しているワケではありませんが、ほぼこのような認識と処理が脳の中で実行されているはずです。

(ちとアニメ風にワルのりし過ぎかも・・・笑)


私も最初は「初心者」状態でしたが、いまは「ある程度読める」状態に少し近づいてきたかな、というところです。

この両者の違いはなんでしょう?

●初心者のワーキングメモリの使い方

ワーキングメモリの「大きさ」は同じでも、一つのワーキングメモリに対応する情報の塊(チャンクと言います)の大きさが違うのです。

初心者は、いち音いち音、音程と指使いを覚えたり考えたりするしかありません。 あっと言う間に、ワーキングメモリを使い切ります。 おそらく、この単純な曲でも、とりあえず1小節覚えるので精一杯でしょう。

だから、いち小節いち小節、ひたすら繰り返して体に叩き込むような方法しかとれません。 初見演奏なんて、夢のまた夢です。

技術レベルによる差は大きいと思いますが、最初の1小節に必要なチャンク(情報の塊)を数えてみましょう。(厳密な話ではなくて、「まあ、こんな感じ」という程度ですが)

右手と左手のそれぞれの開始位置で2個。
右手のソ→ミ→レ→ド(5→3→2→1)の指使いを覚えておくので1個。
右手を等間隔に順番に動かす、ということで1個。
右手を反復する、ということに1個。
左手のド−ミ−ソ(5-3-1)の位置に1個。
左手を押さえ続けるということで1個。
ここまでで計7個です。

有名なミラーの「マジカルナンバー7±2」によれば、「チャンク」は約7個であるとされています。 また、「おぼえる内容」によってこの数は増減します。 (複雑な内容ならチャンクは減る。しかもこの数字は若者の場合。子供や高齢者ではもっと少ないそうです。)

というわけで、1小節を「単純に弾く」だけで、ワーキングメモリは満杯です。

ここに、「優しい感じで」とか、「音を滑らかにつなげて」とか、「右手のメロディーを歌って」とか言われても、それは、脳の処理能力上、無理です。

ピアノの指導者が、(たぶん熱意・親切心から)上のようなことを初心者に要求するのは、実は、不可能を要求しているのです。

●ある程度読める人のワーキングメモリの使い方

ところが、楽譜が読めるようになってくると、非標準的な箇所以外は、もう、いち音いち音は覚えてません。音の進行と指使いのライブラリが長期記憶の中に既にあって、そこを指し示すポインタだけ覚えておけばいいのです。

例えば、最初の1小節に出てくる右手と左手の和音と音の進行は、「よく出てくるワンパターン」なので、これを覚えるためのチャンクは、2個ぐらい、熟達者ならたぶん1個で大丈夫です。 音型を見てCのワンパターン・アルペジオと認識しただけで、あとは特に意識することなく指使いまで自動的に処理されます。

言わば、記憶の省エネ化です。

上の能力差の要因の「(6) 適切な指使いを素早く決められるか」は、まさにこの事を言っているのだと思います。

●音の進行と指使いのライブラリ

だから、読譜力を鍛えるためには、この「音の進行と指使いのライブラリ」を鍛えることが必須です。

単に、「パッと見て音が分かる」だけでは、ダメです。

恐らく、ここを多くの人が誤解しています。 「譜面上の音が分からないから楽譜が読めない」のではなくて、「音の進行と指使いのライブラリが貧弱だから楽譜が読めない」のです。

「ピアうま」にも「ピアノ脳」にも、この「音の進行と指使いのライブラリ」に関して、ほぼ同様の事が書いてあります。

そして、音の進行と指使いのライブラリを鍛えるためには、いろいろなパターンの単純な譜面を繰り返し練習する事です。(少数の複雑な譜面をいくら読んでも、「音の進行と指使いのライブラリ」は鍛えられない。)

●知見「読譜力を鍛えるためには、頭の中に音の進行と指使いのライブラリを作ること」

これは、大人でも、≪適切な≫努力と練習次第で、できます。



しつこく、続きます(笑)。
| 坂上酔狂 | 「大人のピアノ」私論 | 08:05 | comments(2) | trackbacks(0) | - | -
大人の初心者ための知見(1)
前の二つの記事(12)でも紹介したのですが、角先生の新著と、古屋晋一先生の次の著書は、大変役に立ちます。

「ピアノがうまくなるにはワケがある: 努力よりコツ!」 (角聖子 著)


「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム」 (古屋晋一 著)


というのは、角先生の本(以下「ピアうま」と略)は、実際に多数の大人の初心者を教えた経験に基づく内容ですし、一方の古屋先生の本(以下「ピアノ脳」と略)は、「音楽演奏科学」を目指すサイエンスの立場から書かれたものです。

両者を比較すると、随所で共通する内容が、違う言葉で書かれています。

こういった内容を整理すると、この文章のタイトルである「大人の初心者ための知見」がいくつか見えてくると思います。

私が、偉そうにあれこれ論じるのもナンですが、例によって、屁理屈を展開してみたいと思います。

●知見「再開組と始めて組は違う」

再開組=子供のときにある程度習っていた方
始めて組=子供のときにまったくやってない方

よくある意見「子供の頃にやっていたけど、すっかり忘れてしまったので、ゼロから始めるのと同じ」

同じではありません。「ピアノ脳」の随所で、早期教育が有効であり、それが脳に変化をもたらしている事例が紹介されています。 また、「ピアうま」p.14では、大人がクラシックの原曲に短期間で到達したとしても、『それは、大人ならではの「にわか勉強」の結果であって、子供たちが充分時間をかけてやってきた基礎がごっそり抜けている』という記載があります。

したがって、再開組と始めて組に同じ教育メソッドを適用するのは困難なはずです。

かといって、大人が子どもと同じ教材、教育課程でよいのか、というと、それも難しいです。

そこで、「ピアうま」では、大人が挫折せずに続けていくためのヒントがたくさん述べられています。

次に、大人にとっての難関である「読譜力」について、もう少し考えてみます。

●読譜力の構成要素

「ピアノ脳」p.105-112に、初見演奏の能力差の要因が六つ挙げられています。(初見演奏と読譜力は同一のものではありませんが、初見ができれば相当の読譜力があるはずなので、ここでは両者は「ほぼ同じ」と考えてみます。)

(1) 15歳までの初見演奏の練習量
(2) 左手を右手と同じくらい器用に使えるか
(3) 楽譜上の視覚情報を素早く処理できるか
(4) 楽譜を見て音を正確にイメージできるか
(5) ワーキングメモリの大きさ(注:ワーキングメモリ=作業記憶。作動記憶。一時的な記憶)
(6) 適切な指使いを素早く決められるか

さらに、(3)と(5)は、訓練によって大きくは変化しないという報告があるそうです。

そうです。「変化しない」のです。

これは重要な情報です。「ダメな人は練習してもダメ」なんですけど、「もともとこの能力が高い人は読譜力の向上に潜在的に有利」という事でもあります。

●周辺視野

この(3)に関しては、周辺視野の広さが重要で、グループや規則性の発見能力と関連するという記述もあります。

「ピアうま」の方にも、「数をこなすことで」、音符を「ある種のパータンや型として認識する」と書いてあります。

これは、ほぼ同じ事を言っています。

周辺視野の能力が明確に表れるのが、文章の「速読能力」です。

自慢じゃないですが、わたし、文章を読むのが速いです。(自慢してるじゃん!)

意図的にナナメ読みで速読するときは、(もちろん主たる注意は一箇所ですが)ページの複数個所、複数行を同時に見ている感覚です。 まさに、周辺視野をフル活用している感じです。

そこで、次のような仮説を立てる事が出来ます。

●知見(仮説段階)「速読が得意な人は読譜力が付きやすい」(逆に苦手な人は読譜力も弱い)

検証方法:音楽教室では心理学や脳科学の研究室のような統制された実験はできませんが、興味のあるピアノ教師の方は、始めて組の方に聞いてみてもらえないでしょうか? かなりの確度で、成立しているものと予想します。

●ワーキングメモリ

もう一つの(5)の方です。ワーキングメモリの大小、すなわち、何かを一時的に(数秒〜数分)覚えておく能力の大小です。 これにも個人差があることが知られているそうです。

これが露骨に出るのが、神経衰弱のようなゲーム。レストランでの注文取り。ちょっと複雑な暗算。

そして、音符の先読みの能力です。

「ピアノ脳」によれば、初見の上手なピアニストは、いま弾いている箇所より、平均して4〜8音くらい先を見ているそうです。読み取った音符をワーキングメモリ上に保持して、その僅かな時間の間に音価や指使いを決定しているのです。

「ピアうま」の方でも、「先読みが読譜力につながる」と明言しています。

このワーキングメモリの大小が日常生活に影響する場面ですが……例えば、人の話を聞いたり、本を読んだりして、その内容を理解するためには、相手の言っている事、書いてある事を一時的に覚えて、関連付けなければなりません。したがって、ワーキングメモリが小さい人は、複雑な内容を話されても理解できない、長い文章を読んでも理解できない、という事になります。

別の例。スーパーやコンビニで買い物したときに、つり銭ができるだけ出ないようにして小銭を渡すと、一瞬固まるバイトがいます。(買い物が6,666円だったので、1万円札×1、千円札×2、百円玉×1、五十円玉×1、十円玉×2、一円玉×1を渡したりとか。大抵はレジが勝手に計算してくれるので実害は無いのですが、そうでないとけっこう悲惨。)

差別的な表現だと言って怒らないで欲しいのですが、要するにワーキングメモリの大小が頭の良し悪しに直結しています。実際、ワーキングメモリと流動性知能(新しいことを学習する知能や、新しい環境に適応するための問題解決能力……平たく言えば頭の良さ)は深く関連しているそうです。

そこで、身も蓋も無いのですが、次の知見。

●知見「頭のよい人は読譜力が付きやすい」

続きはまた次回に。

※蛇足

ここでは、「初見能力と読譜力を勝手に同一視」して、その「読譜力について論じた」だけです。 他の「ピアノ力」は、また別の話です。 誤解なきように。
| 坂上酔狂 | 「大人のピアノ」私論 | 15:07 | comments(1) | trackbacks(0) | - | -
書評:ピアノがうまくなるにはワケがある: 努力よりコツ!
私の大お師匠様、角聖子先生の新刊です。

一言で言うと、「大人のピアノの応援本」です。

即、結果が出る How To 式の内容ではありません。

むしろ、「ピアノはむずかしい楽器です」(←第一節のタイトルがいきなりコレ)という現実を踏まえて、初心者……特に大人がどうやってピアノと向き合えばよいのか、という「心の持ちよう」や「練習のヒント」が沢山つまった本です。

本気でピアノを続けたい人に、ぜひお勧めします。

前作の『「ピアノ力」をつける!―これなら弾ける、かならず続く』と内容的に重なる部分もありますが、より実践的なアドバイスが増えています。 前作をお持ちの方も買って損は無いと思います。

でも、一つだけ不満を言っておきます。 本のタイトルの「努力よりコツ」はいただけません。 「コツさえつかめば、努力しなくてもいいんだぁ」と誤解する、というより、誤解したがるヤツが絶対に出てきます。

「努力【と】コツ」です。 まあ、営業的には、こういうキャッチコピーで仕方がないんでしょう。 近々、角先生とお会いする機会があるので、タイトルの由来を聞いてみようかなと思います。



| 坂上酔狂 | 書評 | 07:00 | comments(2) | trackbacks(0) | - | -
書評:ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム
おもしろい本を見つけたので紹介しておきます。ピアニストの脳と体の働きを、最新の実験や調査を通じて明らかにしていく、という本です。

芸術系の書籍にありがちな、精神論、抽象論、主観ではなく、ちゃんとサイエンスとして論じられています。この本のテーマは「音楽演奏科学」。その目指すところは、著者曰く、「科学という道具を使って、ピアニストをはじめとする音楽家が、思い描いた音楽を健やかに演奏するために貢献する」ことだそうです。これぞ、まさに私が欲するところでもあります。

こういった本は、いままでありませんでした。プロ、アマ問わず、お勧め一冊と言ってよいと思います。

| 坂上酔狂 | 書評 | 15:46 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ハノン 第2部終了
●ハノンの一つの区切り

昨日(2011/10/19)のレッスンで、ハノン第2部の最後、43番の属7のアルベジオが終わりました。最後の「決め」の和音がうまく弾けなかったのですが、オマケのマルです。

ハノン(正確には、ハノンは人名なので、 Le pianiste virtuose en 60 exercices/ピアノの名手になる60練習曲という曲集)は、次のような3部構成になっています。

  • 第1部 準備練習(素早く、独立して、力強く、つぶをそろえる) (1番〜20番)
  • 第2部 さらにすすんだテクニックを得るための準備 (21番〜43番)
  • 第3部 最高のテクニックを得るための練習 (44番〜60番)

ハノンを始めた時期をメモっておかなかったので正確には分かりませんが、1番から省略なしに進んできて、約6年強かかったと思います。

第2部が終わったら、第3部に行くかと思いきや、師匠曰く「第3部は必ずしもやらなくていいので、最初に戻って1番からやりなおしましょう。でも今度は、ハ長調ではなくて、いろいろな調で練習してみましょう」との事です。

第2部が終わったことで、いちおう、一つの「区切り」になったと思います。

●ハノンの利点

アマチュアの方がハノンを練習する是非については、いろいろな意見があるようですが、私は、やってよかったと思います。以前書いた事の繰り返しになりますが、ハノンの利点を列挙してみましょう。

  1. 単純なのがいい。敷居が低い。(単純なのを「音楽性がない」と批判する人もいますが。)
  2. 短いので、5分・・・いや、3分あれば・・・いや、たとえ1分でも、練習できる。
  3. やはり、指が鍛えられる。(ただし、ちゃんと先生について、変な弾き方をしないようにしてください。悪い癖がついたり、故障の原因になりかねません。)
  4. 実は、ナチュラルポジションの訓練にもなっている。(ナチュラルポジションとは、「隣り合った白鍵に5本の指を1本ずつ置いた形」の事です。指使いの基本です。)
  5. ドレミと頭の中で唱えながら弾く事で、音名と鍵盤、音名と楽譜の対応を付ける練習にもなる。
  6. 第2部のスケール(音階)とアルペジオ(分散和音)は、演奏の基本中の基本。これが自然にできるようになると、演奏や譜読みがすごく楽になる。
  7. 以上の三点は、言い換えると、読譜力養成の側面支援になっている。
  8. 酔っぱらっても、弾ける。大人にとってはけっこう重要。

今回は、このあたりで。

| 坂上酔狂 | 練習日記 | 07:50 | comments(6) | trackbacks(0) | - | -
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